プロジェクトについて
飛島のウミネコ繁殖地で起きていること
飛島のウミネコ繁殖地の現状
飛島は、山形県酒田市の北西部、日本海に浮かぶ人口約150人の小さな島です。
対馬海流の影響を受ける温暖な気候と豊かな自然に恵まれ、春と秋の渡りの時期には、多くの野鳥が飛来し、バードウォッチングを楽しむ人々も訪れます。
飛島は、全国でも数少ないウミネコの繁殖地のひとつで、1938年に国の天然記念物に指定されました。
現在、「飛島ウミネコ繁殖地」として、舘岩(たていわ)、百合島、御積島(おしゃくじま)、赤島、小赤島、大赤島の6箇所が指定されています。
しかし、そのうち舘岩では、2014年の調査以降、ウミネコの営巣が確認されていません。
長年にわたってウミネコが繁殖してきた場所で、なぜ営巣が見られなくなったのでしょうか。その背景を明らかにするため、これまでさまざまな調査が行われてきました。
飛島のウミネコ営巣数の変化
下のグラフは、飛島のウミネコ繁殖地における営巣数の推移を示したものです。
百合島では現在もウミネコの営巣が確認されており、近年は営巣数が増加する傾向も見られます。
一方、舘岩では2014年に営巣数が0となり、それ以降、営巣が確認されない状態が続いています。
同じ飛島のウミネコ繁殖地でも、場所によって繁殖の状況に違いが生じています。

飛島ウミネコ繁殖地の営巣数の推移(2004~2024)
(2024年度 モニタリングサイト1000小島嶼調査報告書より筆者加工)
写真から見る舘岩の変化
下の写真は、舘岩の同じ場所を2004年と2025年の5月に撮影したものです。
どちらもウミネコの繁殖期に撮影された写真ですが、2004年には多くのウミネコが確認できる一方、2025年にはウミネコの姿がほとんど見られません。
写真からも、舘岩でウミネコの繁殖が見られなくなった変化を知ることができます。
2004年5月


(提供:公益財団法人山階鳥類研究所)
→2025年5月


(撮影:文化政策課)
猫によるウミネコへの影響
2014年、百合島で確認された猫
2014年5月、舘岩と百合島を対象に、ウミネコの営巣数を調べる調査が行われました。
この調査では、猫のものと考えられる糞からウミネコの羽毛などが確認されたほか、百合島では14羽以上のウミネコの成鳥の死体が確認されました。
また、島民への聞き取りから、猫が消波ブロックから百合島まで泳いで渡る様子が目撃されていたことも分かりました。
これらの調査や目撃情報から、飛島本島と百合島の間を猫が行き来し、ウミネコの繁殖地に侵入している実態が明らかになりました。

百合島で目撃されたクリーム色の猫
(参考:富田直樹ら(2016)「山形県飛島のウミネコ繁殖地のネコによる被害状況」山階鳥学誌47:123-129)
2025年、舘岩で猫のモニタリング調査を実施
百合島で猫の侵入やウミネコへの影響が確認されていたことから、本島とつながる舘岩についても、猫がどのように活動しているのかを詳しく調べる必要がありました。
そこで2025年、舘岩内の10箇所にセンサーカメラを設置し、猫の侵入状況や活動の実態を調査しました。
調査は5月から8月末まで行い、センサーカメラによって猫の行動を継続的に記録しました。

センサーカメラ設置位置図




カメラ設置作業/設置されたカメラ
舘岩で確認された猫の活動
調査の結果、猫がウミネコの幼鳥をくわえて運ぶ様子が撮影され、猫によるウミネコ幼鳥の捕食が確認されました。
また、舘岩の広い範囲で猫の活動が確認されたほか、子猫も確認されたことから、舘岩が猫の活動場所となっているだけでなく、猫が繁殖する場所にもなっていることが分かりました。
猫の撮影回数は5月下旬から増え始め、7月中旬頃から減少する傾向が見られました。
この時期は、ウミネコの産卵から孵化、幼鳥が増える時期と重なっています。






調査結果から見えてきたこと
これまでの調査では、百合島への猫の侵入やウミネコへの影響が確認されており、2025年の舘岩での調査でも、猫によるウミネコ幼鳥の捕食が確認されました。
こうした調査結果を受け、「酒田市飛島ウミネコ繁殖地再生委員会」では、猫による捕食がウミネコの営巣数に影響を及ぼす要因の一つであると評価されました。
海鳥の研究者、動物愛護団体、獣医師会、地元関係者などで構成される同委員会では、ウミネコ繁殖地の再生に向けた対策について検討が進められています。
その中で、島で暮らす飼い主のいない猫を島
へ譲渡し、新たな飼い主につなげる取り組みが提案されました。
島民の皆さんの意見
猫の島外譲渡を進めるにあたっては、これまで島で猫と暮らしてきた島民の皆さんの思いや意見を踏まえることが大切です。
そこで2025年9月、飛島島民を対象に、ウミネコや猫に関するアンケート調査を実施しました。
勝浦、中村、法木の各集落から38人の回答があり、ウミネコ繁殖地の保全や猫への対策、島外譲渡について、さまざまな意見が寄せられました。
島民から寄せられた声
アンケートでは、ウミネコを守る必要性や猫との共生、猫が増えることへの懸念など、さまざまな声が寄せられました。
観光客から「国の天然記念物なのにウミネコがいないんだね」という声がある。芝生公園で猫の糞が多く、公衆トイレ状態になっている。
島の猫の現状に心が痛んでいた。バードウォッチングの聖地であるので、ウミネコやそのほかの野鳥がいなくなってしまうのは困る。
出来ることであれば猫と共生するのが良いと思いますが、このままにしておけば猫が増えすぎて様々な影響が出てくると思うので、これ以上増えないようにすることが大事だと思う。
ウミネコも文化財で重要だが、島にとって癒しにもなるしネズミの被害から守ってくれる。ウミネコも猫も平等に扱ってほしい。
→ 飛島ウミネコ繁殖地再生事業住民アンケート調査結果 詳細はこちら
https://www.city.sakata.lg.jp/bunka/bunkazai/umineko.files/tominankt.pdf
ウミネコ繁殖地の保全に向けて
これまでの調査から、舘岩や百合島では猫がウミネコの繁殖地に入り込み、幼鳥を捕食していることが確認されました。また、島民アンケートでは、ウミネコ繁殖地を守るための猫対策や、島で暮らす猫の今後について、さまざまな意見が寄せられました。
こうした調査結果や島民の皆さんの声を踏まえ、国指定天然記念物「飛島ウミネコ繁殖地」を守るため、猫によるウミネコへの影響を減らす取り組みを進めることとなりました。
そのため、島で暮らす飼い主のいない猫を適切に保護し、健康状態や性格などを確認したうえで、新たな飼い主につなげる島外譲渡を進めていきます。島外譲渡によってウミネコ繁殖地への猫の影響を減らすとともに、猫たちが新たな環境で安心して暮らせるよう、一匹一匹の命に配慮して取り組みます。
また、飛島ではこれまで猫とともに暮らしてきた島民の皆さんがいます。取り組みを進めるにあたっては、島民の皆さんの思いや意見にも耳を傾けながら、島の暮らしや猫との関わりにも配慮して進めていきます。
このプロジェクトの目的は、飛島の貴重なウミネコ繁殖地を守り、ウミネコがこれからも飛島で繁殖できる環境を未来へつないでいくことです。そのために、猫によるウミネコへの影響を減らすとともに、島で暮らしてきた猫たちの命も大切にしながら、ウミネコと猫、そして飛島の自然と暮らしを次の世代へつないでいきます。